「賃貸不動産経営管理士」の試験によく出題されている原状回復をめぐるトラブルとガイドラインについての解説です。
賃貸借契約で一番問題になる事が多い、退去時の原状回復に関する内容です。
このジャンルは、毎年複数問出題されています。
- 令和2年 問31・問32(2問)
- 令和元年 問21・問22(2問)
- 平成30年 問25(1問)
- 平成29年 問24・問26・問27(3問)
- 平成28年 問24・問28(2問)
- 平成27年 問24・問28(2問)

原状回復をめぐるトラブルとガイドラインとは
民間賃貸住宅における賃貸借契約は、いわゆる契約自由の原則により、貸す側と借りる側の双方の合意に基づいて行われるものですが、退去時において、貸した側と借りた側のどちらの負担で原状回復を行うことが妥当なのかについてトラブルが発生することがあります。こうした退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして平成10年3月に取りまとめたものであり、平成16年2月及び平成23年8月には、裁判事例及びQ&Aの追加などの改訂を行っています。
原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義
原状回復 貸主の負担分
- クロスの経年劣化及び通常損耗分の張替え
- ポスターやカレンダー等の掲示のための壁等の画鋲の穴
- 震災等の不可抗力による損耗や、借主と無関係な第三者がもたらした損耗等
- 家具を設置したことだけによる床、カーペットのへこみ、設置跡
- 破損や鍵紛失等の事情のない場合の鍵の取替え
- 喫煙等による臭い等が付着していない場合のエアコンの内部洗浄

原状回復 借主の負担分
- クロスが耐用年数を超えている場合でも、借主がクロスに故意に落書きを行ったときは、これを消すための費用(工事費や人件費等)
- 経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に借主が故意・過失等により設備等を破損し、使用不能にしてしまった場合には、従来機能していた状態まで回復させるための費用
- 襖紙や障子紙の毀損等については、経過年数を考慮せず、借主に故意過失等がある場合には、張替え等の費用
- ペットにより柱、クロス等にキズが付いたり臭いが付着している場合
- 特約によるクリーニング費用
- 借主が鍵を破損や鍵紛失等した場合の鍵の取替え
- 借主の住まい方や使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるもの
- 借主が通常の住まい方、使い方をしても発生すると考えられる損耗等であって、その後の手入れ等借主の管理が悪かったために、その損耗等が発生・拡大したと考えられるもの
- 喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合の居室全体のクリーニングまたはクロスの張替費用
- 借主の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損
- 賃借人が清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合の風呂・トイレ・洗面台の水垢・カビ等
- 草取りが適切に行われていない場合の庭に生い茂った雑草

クロスの原状回復

クロスの耐用年数は、6年。
6年でクロスの価値は1円なるような線・曲線のグラフで貸主・借主の負担を設定します。(借主が喫煙したことによって必要となった場合も同様です)
クロスの張替えの場合、「㎡単位が望ましいが、借主が毀損した箇所を含む一面分までは張替え費用を借主負担としてもやむをえない」とされています。

床(クッションフロア・フローリング・畳)の原状回復
クッションフロアの交換もクロスと同じように、6年でクッションフロアの価値が1円なるような線でグラフで貸主・借主の負担を設定します。
家具を設置したことだけによる床、カーペットのへこみ、設置跡については、貸主負担とすることが妥当とされています。
畳の表替えの費用には、経過年数が考慮されません。
借主の過失によって必要となったフローリングの部分補修は、経過年数を考慮することなく借主の負担となります。
フローリングについての経過年数の考慮については、フローリングの原状回復工事として部分補修が前提とされ、経過年数を考慮しないと規定されていました。しかし、フローリング全体にわたっての毀損により床全体の張替えが必要になる場合もときにはあり、その場合には経過年数の考慮をすることが適当と考えられますが、その旨が明記されておらず疑義が生じていた場合もあったため、張り替えた場合には経過年数を考慮する旨が確認的に規定されたものです。
原状回復ガイドラインより引用
イ 借主の過失によりフローリング床全体の張り替えが必要となった場合の張り替え費用は、経年変化を考慮せず、全額借主の負担となる。(令和2年度賃貸不動産経営管理士試験問題 問31より)

原状回復の特約
通常損耗に関しガイドラインと異なる原状回復の取扱いを定める場合、借主が負担することになる通常損耗の範囲を賃貸借契約書に具体的に記載するなどして、その旨を借主が明確に認識して合意の内容とすることが必要です。
原状回復の取扱いについて、ガイドラインの内容と異なる特約が当然に無効となるわけではありません。
賃貸借契約時に「原状回復工事施工目安単価」を明記していた場合でも、退去時に資材の価格や在庫状況の変動、毀損の程度や原状回復施工方法等を考慮して、貸主・借主双方で協議した施工単価で原状回復工事を実施します。「原状回復工事施工目安単価」はあくまでも目安です。
